大事なものは、たいてい面倒くさい。
"育てる"という言葉に弱い。履くほど馴染むデニム、弾いているうちに鳴りが変わるギター、最初に選んだポケモン、2日目のカレー。一緒に過ごした時間が、味になるものに不思議と惹かれてきた。僕にとって、この「冠衣-KABURI-」もそのひとつになった。
Tシャツは本来、やわらかく伸びる素材で作られた“消耗する肌着”だ。でも「冠衣-KABURI-」は違う。三重県の伝統工芸・伊勢木綿を営む臼井織物とコラボし、着物の発想を取り入れることで、着るほど・洗うほどに風合いが増していく一着に仕上がっているそうだ。
"育てる"ことが好きな自分にぴったりかもしれない
育てるつもりが、育てられている
洗濯を繰り返すたび、少しずつ自分に馴染んでいった
着るたびに表情を変えるこの服
手のかかる子ほど可愛い、という。気づけば、面倒な洗濯さえ楽しみになっていた。着るたびに表情を変えるこの服のことを、大切に思うようになった。かけた時間の分だけこの先も、もっと好きになっていくのだろう。
SANGOU自体もカルチャーだが、カルチャー同士の架け橋でもあり、僕のような人間にとってはその入り口だ。つい最近まで知らなかった伊勢木綿の伝統に触れられたことをどこか誇らしく思っているし、いつまでもあり続けてほしいと感じている。
そう思いながら、僕は今日も当たり前のように大量生産の既製品に袖を通している。
臼井織布9代目臼井成生さんはSANGOUのHP内で「廃業寸前」と書いていた。地方の伝統ある同業者の廃業も相次いでいるそうだ。
正直言って他人事ではない。僕がやっている音楽も、AIである程度のものができるようになった。そのことを否定したいわけでもないし、大切に思う人もいるのだろう。そもそも、時代の流れとしてもう仕方がない。それでも、この服にしかないものがあると感じている。
それは文脈と心、だと思う。
一生切れない電球を作ることができる、と聞いたことがある。スマホは2年で壊れるようにできているとも。もちろん、都市伝説の域を出ないし、これらは「商売」と考えたときに仕方ない部分もあるのだろう。だが、SANGOU×伊勢木綿はそこに真っ向から立ち向かっている。僕はこれを格好良いと思った。
すぐに何かを変えられるわけではない。これからも僕は普通に大量生産の既製品を着るだろう。だが、こういう服があることを知った。少しだけかもしれないが、選び方が変わる気がしている。
この服には、手間がかかる。けれど、その手間ごと好きになれる
"買って手に入れて終わり"ではない、"手に入れていく"感覚。育てて育てられ、馴染んで仲良くなる。その時間ごと着るという体験が「冠衣-KABURI-」にはある。
この服には、手間がかかる。けれど、その手間ごと好きになれる人のためにある。
よければ一度、この服の文脈の中に身を置いて、心を感じてみてほしい。きっと応えてくれる。生成・藍・黒・あなた、それぞれの“育ち方”があるはずだ。
「大事なものは、たいてい面倒くさい。」とは、きっとこういうことだ。

《プロフィール》
yuma hayashida
長崎県島原市出身。京都在住。シンガーソングライター。バンド「橙々」での活動を経て、2026年3月よりソロ活動を開始。音楽活動についてや日々の気づきをnoteで執筆中。SANGOU KYOTOにて、音楽イベント「裕ユウ白書」を毎月開催。

